今年は3年振りにバレンタインデーが月曜という平日なので、
妻帯者や売り手側に、
義理チョコへの期待が微妙ながら膨らんでいるとかどうとか、
「ワイドショーでゆってたの。」
「会社に勤めてる人はそうなんだろけどさ、
土日も祭日もないって人には、そんなの関係ないないって言ってるぜ?」
土日も祭日もない人って?
例えばお巡りさんとか、あとおミズのお姉さんとか。
「おみず?」
仲良しなお友達の一言が引っ掛かったのか、
ふわふかな頬にいや映える、潤んだお眸々も愛らしく。
それってなぁに?と、
ひょこりと小首を傾げた瀬那くんで。
ついつい小さなお手々が止まったのへは、
「あ、セ・セナくん。
しーっかり泡立てないとサクサクのは焼けないぞ?」
大判のクッキングブック、
調理台にて広げて押さえておくのを担当中だった、
亜麻色の髪したイケメンレシーバーさんが、
微妙にあわわという語調で割って入って下さって、
「あ、そぉだったです。」
はっと我に返ったおちびさん。
細っこい腕で抱え込んでいた、
洗面器ほどもありそうな大きなボウルに、
玉子の白身だけをカシャカシャと。
もう10分以上は経ってるだろうという長きにわたって、
一生懸命に泡立てている真っ最中。
こうしてふんわり泡立てた“メレンゲ”というのを作り、
そこへアーモンドパウダーとココア、
粉のお砂糖をさっくり混ぜて。
天板に絞り出してのオーブンで焼けば、
「マッカロン、マッカロン、美味しいのvv」
特に今日はネ、チョコ味のを作るんだもんvvと。
可愛らしいセナくんから“しみつのメール”を頂戴した、
大学生となっても、
甘い系アイドルと王城シルバーナイツ、
二足の草鞋を履いて活躍しておいでの桜庭春人さん。
チームメイトの進とこそ、
微笑ましい“お付き合い”をしているはずのこの坊やが、
そんな進には内緒で自分に連絡つけてくるときは、
“お悩み相談か、
何かへのお手伝いって相場が決まっているもんな。”
アメフト三昧の日を送ってるという点じゃあ、
朴念仁の進と大差ない桜庭だけれど。
相手は まだ小学生という そりゃあ無邪気なセナくんなので、
『電車に乗って
お隣りの駅前まで行くのについて来てほしい』とか、
『図書館の
棚の高いところにあったご本を取ってほしい』とか、
せいぜいその程度の他愛ないことが大半ではあるけれど。
本当に時たま、
微妙に自分では歯が立たないレベルやジャンルのご相談、
持ち込まれることもあるので。
「つか、今回のは現場に居合わせたんだろが、ジャリプロ。」
「…その呼び方は辞めてって。」
アメフトボウラーならではのタッパこそあったが、
まだまだどこか線が細かった高校時代とは打って変わって、
成人ならではの練られた体躯、重厚なそれへと育って来たこと、
周囲からも褒められておいでのラバくんだのに。
付き合いの長い人たちからは、
相も変わらず“ジャリプロ”だの“アイドル”だのと、
呼ばれる扱いも やまない模様。
殊に こちらの…伸ばした黒髪びしりとセットし、
三白眼にニヒルな口許と、鋭角なお顔も恐持ての。
限定解除クラスの大型バイクを早くから乗り回していた、
ちょっとした“ワル”でもあった葉柱からは。
ひょんな縁もあってのこと、
試合会場のみならず、頻繁にお顔を合わせる機会も多く。
そこから、微妙に“お軽い奴”と言わんばかりの扱いされているものの。
それを言うなら、
暴走族さえ率いているほどおっかなく、
実は実は喧嘩も強いクチの総長さん相手に、
にゃは〜っと笑いつつのタメグチ利き続けて早やン年という、
肝っ玉の太さは、いい勝負ではなかろかと。
というわけで、
まったくもって…当人同士のタイプも、
アメフト以外で過ごす時間帯の世間も、
カラーが大きく異なる二人だが
「そうなんだってな。
進が妙なこと言い出したのが発端なんだろ?」
こちら様もまた、でっかいボウルを小脇に抱え、
余裕余裕とにんまり構えもっての、
そんな口利き挟んで来たのが。
淡色の金髪に金茶色の目許も愛らしい、
賢そうな額にすべらかな頬、純白の肌でくるんだ、
まさしく天使のような見栄えの坊や。
こちら、葉柱さんチの広々とした厨房お借りして、
スィーツ製作にいそしめるよう、
仲立ちに立ってくれたほどの、お顔の広さが一番の売りで。
今より逆上っての数年前、
小学校に上がったばかりという頃合いに知り合ったときからこっち、
この恐持ての総長さんとも、
「ルイ、そっちの冷凍庫からアーモンドパウダー出して。」
「おうよ。」
そんな呼吸で共同作業がこなせるほどの、
親しくも気安い間柄になっておいでという恐ろしさであり。
ついでにいえば、
「…今日のはそんなに道具は使わないと思ったんだけどもね。」
「慣れろ。」
粉や砂糖を計った秤。
ボウル各種に、電動ミキサー。
後で粉類を混ぜ入れるのに使う木べらゴムべら、
オーブンの天板へ絞り出す、絞り出しぶくろくらいしか使わぬはずが。
相も変わらずの散らかしまくり、
何でだろうか、蒸し器やお玉も5、6本出てたりするのが、
もはや“お約束”であったりするのだが、
まま そこも今はさておいて。(笑)
『手作りお菓子を作るんだもん』という集いになっている、
おちびさん二人とその付き添いという構図になっておいでの彼らなの、
その発端にはもう一人が大きく関わっておいで。
何かと“お初”が付きまくった一月が去り、
節分も無事に終わったこの時期といやぁ。
大学へのセンター試験の二次とか、高校入試…も大切じゃあありますが。
世の男女の間にて、ほのかにホットな鞘あて繰り広げられてしまう、
聖バレンタインデーというのが控えておいでで
青春かけての告白をと真摯に構える人もあれば、
単なるお年玉代わりのイベントだとする人もおり。
そこに甘味のチョコレートが道具立てとして付いて回るのは、
はっきり言って日本独自のこと、製菓会社の戦略からだが。
好きですの一言さえドッキドキなヲトメたちに、
それを代弁する小道具として広まって 早や幾年月。
和菓子にさえチョコ味の便乗商品が生まれるほどに、
定着して久しいことももはや常識化しているはずが、
『? どうしてケーキ屋がマカロニを売っているのだ?』
学校近くの商店街、
王城の高校・大学双方の生徒らもご贔屓にしているパティスリィにて。
バレンタインデーにいかがという可愛らしいポスターを見て、
将来の日本のアメフト界を背負って立つ筈の男が、
そんな暴言をぼそりと吐いたものだから。
『……? あっ☆
あああ、いやあの、進。それはだなっ。』
大威張りで腕を組んでの感慨深げに、
とんでもない爆弾発言して下さった和風男前の仁王様を。
しどろもどろになりつつ、
買い物も済んだしとの大急ぎ、
店から引っ張り出した桜庭だったのは言うまでもなく。
『僕らが出てって一拍おいて、
店にいた女の子たちが一斉に笑ったの、
突き刺すみたく聞こえたのが、今でも耳から離れませんて。』
しくしくと泣き真似までした桜庭からその話を聞いたセナくんが、
『うっとぉ。
進さんはマカロンって書いてあったのを、
マカロニだと読み間違えたの?』
ファンシーな字体だったから紛らわしかったのかな?と、
気を遣ってくれたのか、それともそもそもの天然さからか、
そんな風に訊いたところへ引き続き、
『…つか、マカロンってのが何なのかを知らねぇんじゃね?』
進さんへのチョコを作りたいの宣言をしたセナくんに、
どんながいいかなとの相談でメールで呼び出された桜庭としては。
マカロンだけは避けた方がと助言を成した。
いやいや奴が傷付くとは言いません、
ただね、むしろ僕がいたたまれないと
鋼のお不動様と付き合ってるからには、
こういうことも頻繁な。
そんなガラスのアイドルさんへの励まし兼ねて。
最愛のセナくんが作ったのを、さあどうぞと食べてもらおう、
そしたら、もう絶対に忘れなかろからとの作戦が練り上がり。
バレンタインデーに向け、
飛びっ切りのマカロンを焼こうとの作業に入った皆様だったが、
「だあ疲れる。進の奴も呼ぼうか。」
電動ミキサーを使っていても、
角が立っての、
ボウルを逆さまにしても落ちないほどというのは
なかなかに大変。
そういえば、
生クリームの泡立ては やったことがあったれど、
メレンゲは一味違うらしいと、重々 思い知ったる小悪魔様。
「進のあの腕力でならあっと言う間だぞ。」
「その前にびっくりの要素がおジャンになるっつーの。」
腕をびんと伸ばしての、こういうときだけ子供っぽい仕草にて、
疲れた替われと、洗い物係だった葉柱へボウルとミキサーをバトンタッチし、
やれやれと肩をすくめた妖一坊や。
「ヒル魔くん、たっくさん作ってたからだよぉ。」
「まぁな。」
何たって平日のバレンタインデーだから、
部員全員の分も作らにゃ不公平かなとか思ってよと。
アーモンドパウダーと粉糖とを配合し始めた、
蛭魔さんチの小悪魔様だったのへ、
「彼女のいない連中には、やっぱ厭味にならんか それ。」
どうしてそうまで手慣れておいでか。
あともう少しだったメレンゲを、だからこその丁寧に。
ぶいんぶいんと泡立てながら、きっちりツッコミを入れた葉柱へ。
「…ったりめぇだ。」
普通のサービスなんて面白くもねぇこと、
俺様がすると思ってか…なんて。
いつもの如く、可愛げのない言い方を返した妖一くんだったけれど。
“…素直じゃないねぇ、相変わらず。”
セナくんのお手伝いはしてあげたいけど、
そうなると自分のためのを手掛ける時間はなくなる。
そこでと、一緒くたに手掛ける格好で、こうして大量に作ることにした。
“今更“本命チョコ”を作るのへ、照れる間柄とも思えないんだけどもね。”
選りにも選って、葉柱当人の前での作業なのもまた、
そんなカモフラージュが要ると思ったポイントだったなら。
どんなに偉そうに突っ張ってても可愛いもんだと。
こちらはセナくんからバトンタッチされた桜庭が、
こっそり感じた悪魔様のツンデレっぷりも萌え盛りらしき、
春も間近な二月半ば、とある日曜日のヒトコマでございます。
〜Fine〜 11.02.13.
*小さいころは平気だったものが、
ちょっぴり恥ずかしくなる場合もあるもので。
アニメやまんが、
そんな子供っぽいものを いつまでも観ていることがバレるのは、
何とはなく気恥ずかしいと思った世代って、
私らが最後なのかなぁ?
一緒にしてどうしますかですが、(笑)
小悪魔様も時々、
葉柱さんへの入れ揚げっぷりを冷やかされると
微妙に痛いお年頃なのかもしれません。
ツンデレ期の始まりですかねvv
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